imusika

津堅泰久 Yasuhisa TSUGATA (1971-2010) イムジカ imusika

石川星太郎

作曲家



津堅泰久さんについて     細川俊夫

 津堅泰久さんを、私は既に12年近く知っています。

 最初は、秋吉台の国際夏期セミナーの時でした。作曲を始めたいということで、お母様に連れられて、車いすに乗ったた彼は、私のもとにやってきました。シャイな彼は、自分からはほとんど語ることができないながら、音楽への愛情と情熱を深く隠し持っているようにみえました。彼の作品は、まだ調整音楽の基礎的な段階を勉強している状態でしたので、私は西洋音楽の古典をしっかり勉強するように勧めました。そして彼は、和声法や楽器法を勉強しはじめました。

 私が秋吉台を辞めてからは、武生国際音楽祭の作曲夏期講習に、津堅さんは毎年必ずやってきました。そして小さな独奏か、デュオの曲を書いて、私のところに持ってきました。本当に素朴で、一つ一つの音をしっかり聴きこんで、丹念に作曲してきました。彼にとっては、音符を自分で、フィジカルな面で大変なことだったかもしれません。しかしその一つ一つの音には、彼の魂の響きがあり、私は毎回、その単純な譜面の奥にある世界に魅せられていきました。他の若い作曲家が、すらすらと何も考えないで音を書きこんでいくのと違って、彼は慎重に音を選んで、3分に満たない小品を完成するにも、半年に近い歳月をかけていました。巧みな音楽のエクリチュールはありません。ヨーロッパの優れた作曲家の模倣もありません。本当に遅い歩みの中で、しかし彼は確実に音楽家として、作曲家として、生まれようとしていたのです。

 そんな津堅さんの作品を、武生音楽祭では、4年ほど前から毎年アカデミーの学生コンサートの時に、上演してきました。鈴木俊哉や、若いヴァイオリンの守屋剛志君たちが、本当に献身的に、彼の音楽を素晴らしく演奏してくれました。それは感動的な音楽でした。その演奏は、津堅さんを感動させ、演奏した奏者を感動させ、そしてそれを聴いた私たちをも強く打つものでした。今井信子さんやシュテファン・ピカールたちも感動しました。そして彼の音楽を、彼の成長を毎年聴けることが、私たちの大きな喜びと希望でした。

 津堅さんの作曲の成長は、彼自身をも変化させていきました。人前ではほとんど語ることのなかった彼は、少しずつ他の受講生たちとも、自らを開いて話ができるようになっていきました。そして衒いのない極めて純粋な心と、彼の静かな笑顔は、私たちをいつもあたたかいものにしていきました。私にとっても、彼と出会うことは、大きな喜びでした。彼の遅いながらも、確実な作曲家としての成長、そして人間的な成長は、音楽することの意味や喜びを、私に教えてくれたのです。いまの世の中には、作曲すること、音楽することでますます人間性がおかしくなり汚れていく作曲家、音楽家がたくさんいます。そういう現場に立ち会うのも、武生音楽祭での悲しい実情でした。

 今年の2月24日に彼は突然永眠されたというお便りを、お母様から受け取り、私は言葉を失いました。彼の美しい心や、笑顔に会えないことは、私たちの大きな損失であり、武生音楽祭にとっても、かけがえのない人を失ったのです。

 しかし彼の魂の声は、彼の音楽の中に残っています。気まじめで、まだ自由に自分を歌っていない音楽かもしれません。しかしそこには、私たちが失った純粋な人間の声があり、それを懸命に追求しようとする魂の叫びがあります。

 私たちは、彼の音楽を聴くことで、彼を追悼し、彼の尊い「いのち」をいつまでも記憶していたいのです。

 

(武生国際音楽祭2010プログラムより)

作品目録

独奏曲

アンサンブル曲

当社による津堅作品の著作権管理は、作品の保存と普及を目的としており、上演に際し楽譜の使用料、著作権料、演奏料はいただいておりません。
作品にご興味をお持ちの方、演奏ご希望の方は、当社までお問い合せください。

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